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13 La Morte 停止、損失、死と再生。正、死、負、死からの再生、やり直し。 記憶を失った男の話。 ← 「ツナが直々に探しに来るってことは、結構やばい仕事なのな。」 ボンゴレのボスの部屋には、クリスマスツリーのミニチュアが飾られていた。彼の妻の趣味だろうか。二頭身のサンタのオーナメントが、いくつもついている。 「そう。ごめんね、いつも危ない仕事ばっかりで。しかも、こんな日に。今日はクリスマスなのにね。」 沢田はそう言うと、済まなそうに笑った。彼の笑顔には、奇妙な力があった。山本の笑顔とは全く違う魅力を持っている。人を安心させるための笑顔、安らぎの笑顔、正常な笑顔、それでいて、仕事中は大変冷淡な笑顔を見せる。「構わねえって。」と山本は笑みを返し、仕事の内容を尋ねた。すると沢田は、あるファミリーの皆殺しだと言う。ふうん、と唸った山本は、そのままの微笑みで言った。 「おう。俺だけで行くの? 一人で行っていいのか?」 すると沢田は、「ううん、今回は獄寺君と一緒に。」と言う。 沢田の右腕である獄寺がわざわざ現場に出ることは、山本や笹川了平に比べ極端に少ない。それは、獄寺の性質に寄る。大量殺人を可能にする武器の特性で、一度使えば大抗争になるからだ。敵対勢力にとっては、ボンゴレで最も避けたい名前である。 「たくさん殺んのな。何人?」 山本は、沢田のシガーケースから葉巻を一本勝手に取った。先端を切り落とし、火を付ける。独特の深い匂いがした。沢田は「正確な人数は掴めてないんだ。」と言うと、紙切れを山本に渡した。 「時間と場所はそこに。獄寺君とは現地集合。他に工作員は出さない。この仕事は、ボンゴレの表にも出さない。裏の、その裏だよ。」 そう、と山本はゆるりと笑った。「ほんじゃ、またな」と言って、葉巻を咥えたまま、その部屋を出た。部屋には緊張感の残滓が、やり場もなく渦を巻いていた。 現場では既に、獄寺が仏頂面で立っていた。「遅えよ。」とわざわざ口にするマメさは、十年前と変わらねえな、と山本は思う。 「山本、俺が考えてきた作戦通りに動けよ。」 こんな理論武装も、全く変わっていない。山本は懐かしさにほっとする一方で、記憶を失った男のことを思い出した。思い出すと、鎖骨の上がずきりと疼く。獄寺はその間もどんどん作戦を喋り続けた。 獄寺の作戦についての長い説明が終わって、山本はこうまとめた。 「とにかく、獄寺は屋上からどんどん下まで発破をかけていくってことなのな? そんで、俺はゴールキーパーみたいに、一階の裏口でし止めればいいのな?」 「てめえ、何聞いてやがった。簡単に言いすぎなんだよ。まず、出口を一箇所にするために、俺が裏口以外のドアを爆破して、瓦礫で埋める。それで、中に入ったら、俺が爆発の混乱を突いて一気に屋上まで上がる。てめえはその間、一階に残ってその階を始末。五階から爆発していくから、そのつもりで。俺がエレベーターで戻って合流したら、一階を爆破。その十分後には時限爆弾でビル全体が誘爆する。最近流行りのテロに見せかけるために、てめえは血文字でクルドって落書きを残す。ほら、完璧だぜ。」 「行くのな」「行くぞ」 イタリアの正午、同時に呟いた二人の男がビルに消えた。 爆音の中、少し飛んだ山本の耳にはクリスマスソングが流れていた。鼓膜が変で、耳鳴りがする。 (ジングルベルに乗せて、人を斬っている俺。) ワンフレーズに合わせ、ひとつずつ刀を振るう。 (ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る、何とかかんとか何とかの雪? その次何だっけ。) 「なあ、ヒバリ、何だっけ。」とうっかり呟いて、また口を閉じた。 何十人斬ったか――贅肉の感触、脊髄の感触、あばらの感触、白い神経の感触。ごぼごぼと血を吐く死体たち。醜い、美しい、醜い、美しい。 (肉は、醜い。本当に美しいのは、骨じゃないか。) 次々に起こる発破音の中、悲鳴を上げた男たちが一つの出口に殺到し、そのひとつ裏に居る山本が、彼らを順番に斬っている。死のベルトコンベアー、あるいは山本による全自動装置だ。きらりきらりと日本刀が返って、返る度に血が流れる。真昼の凶状なので、血を浴びないように極力注意する。あらかた斬ったところで、山本は切り落とした首を持って壁に「クルド」と書く。とある虐げられた少数民族の名前だ。これで、彼らの仕業と偽装する。 (アレ、綴りってこうだっけ。すまねえ、騙っちまって。) 書き終えたとき、とうとう上の階から獄寺が戻ってきた。 「もたもたすんな、出るぞ。」と怒鳴られる。 その時、山本と獄寺の間を、何かが通り抜けた。人間だ。 「止めろ山本、生き残りだ!」 山本は手にしていた首を放り出し、走って男を追いかけた。ビルの外まで追いかける。しかし、ビルの裏口はクリスマス当日の喧騒に撒かれ、男の姿は見えなかった。念のためビルの表にも回ってみたが、そこは大きな爆発音に何事かと集まった人々で埋まっており、進めそうになかった。ふう、と息を切らした山本が振り返ったところに、獄寺が居た。 「山本、一人逃がしたぞ。」 「ああ、わかってるのな。」 「わかってねえよ。やばいぞ。」 「わかってる。」 山本がそう言ったところで獄寺はちっと舌打ちして、「帰るぞ」と言い捨てた。山本も、最後の一人を逃してしまった後味の悪さに、眉を顰める。 (あれだけやっても、まだ足りねえってんだ。) ぐつり、と血が逆流するような感触を、得ていた。乾いた音がして、鎖骨の上の傷が自然に開いた。 ← * → " Untitled #13-La Morte "/200611131118 |